私の友人知人の中でたった一人だけ、陰謀論をちょっとかじった男性がいます。
ほかはみんなマトリックスの青いカプセルを選ぶような人たちなので、リアルな世界でイルミがどうのこうのと話せる相手はこの人だけ。
「がんばって日本を守ろう!」なんて言ってくれる貴重な存在ではあったのですが、初心者にありがちな誘導情報に振り回されがちで危うい一面もありました。
ところが、しばらくご無沙汰しているうちに、彼が怪しげな詐欺ビジネスに顔を突っ込んで周囲が迷惑しているという噂が飛び込んできたのです。
聞くところによると、11万円か33万円を払ってある商品のモニター会員になると、いずれ一千万円単位の報酬が受け取れるというもの。
そんなうまい話があるわけないと普通は思うでしょう?
11と33という数字がまず胡散臭いし。
優秀なエンジニアだった彼がなぜそんなものにのめり込むのか、私にもよくわからなかったんですが、ついに私のところにも勧誘の電話がありまして、そのときに理由を尋ねました。
そしたら、なんと、「これ以上恐怖に耐えられなくなったので、あっち側に行くことにした」と言うではありませんか。
聞けば、友人と事業を起こしたものの失敗して借金を返すのに四苦八苦している。まともなことをしてたら金儲けなんてできないから、ノウハウを知りたいんだと。
つまり、だまされたのではなく、みずから望んでその道に入ったわけです。
その後どうしているか知りませんが、こういうのもストックホルム症候群(誘拐事件や監禁事件などの被害者が、加害者である犯人に対して好意的な感情を抱くこと)の一種なんでしょうかね。
そう考えると、彼の場合は赤いカプセルを選ぶべきではなかったのかも。
スウェーデンのストックホルムで起きたノルマルム事件が1973年。
大阪で起きた三菱銀行北畠支店の人質事件が1979年。
今思い出しても背筋が凍るような事件でした。